選択制確定拠出年金を自ら運用すると聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、じつは多くのメリットがあるのを知っているでしょうか?
この記事では、選択制確定拠出年金の制度概要や、運用中から効果があるメリットや注意すべきデメリットを紹介します。
選択制確定拠出年金(選択制DC)とは
選択制確定拠出年金(選択制DC)は、従業員が自由に加入を選べる企業型確定拠出年金制度です。
拠出金は企業が用意し、主に以下の2パターンで支給されます。
①退職金を企業型DCの掛金として拠出する。拠出しない場合は給与や賞与の一部として前払いで受け取る
②給与や賞与の一部を「ライフプラン選択金」という名目にして企業型DCの掛金として拠出する。拠出しない場合は給与や賞与として受け取る
どちらの方法で受け取る場合も、受け取り方は従業員が自由に選択できます。
また、ライフプラン選択金として受け取る場合、そのうちいくらを拠出するかも自由に決定することが可能です。
選択制確定拠出年金(選択制DC)の制度概要
選択制DCは企業型DCの一制度であるため、基本的な条件は企業型DCと同じです。
改めて選択制DCの基本条件を見ていきましょう。
加入資格と拠出限度額
選択制DCに加入できるのは、選択制DCを実施している企業に勤めている従業員のうち、70歳未満の人です。
ただし、60歳以上で加入できるのは、同一事業所で継続して雇用されている厚生年金被保険者のみです。
また、企業によって加入できる年齢が異なる場合がありますので勤務先に確認しましょう。
拠出限度額は、実施している企業が、ほかに企業年金を実施しているか否かで変わります。
ほかに企業年金を実施していない場合は、月額55,000円(年額66万円)以内、ほかに企業年金を実施している場合は、月額2万7,5000円(年額33万円)以内です。
購入可能商品
選択制DCで購入可能な商品は、国内外株式や国内外REIT、国内外債券などを取り扱っている投資信託や、元本確保型の定期預金などです。
どの商品を選ぶかは、従業員が拠出限度額の範囲内において自由に選択できます。
払戻し条件と受け取り方
選択制DCの受け取りは原則として60歳以降です。
受け取り開始年齢は、最長で75歳まで延長可能で、延長期間中は引き続き運用が可能です。
また、受け取り方は、一時金と年金、または一時金と年金の併用から選べます。
選択制確定拠出年金(選択制DC)のメリット
選択制DCは年金を準備する力に注目が行きがちですが、税金と社会保険料を同時に節約する効果があり、現役世代にも恩恵が大きい制度です。
メリット①運用益が非課税
選択制DCで用意されている税制優遇制度は、運用益の非課税と受取時の所得控除の2つです。
まず、運用益についてですが、一般の金融商品では20.315%の所得税が課せられるところ、選択制DCでは課されません。
非課税になる期間は運用中であれば無期限で、受け取り開始まで非課税運用が続きます。
また、運用益が非課税ということは、通常より多くの運用益が再投資されるということです。
メリット②受取時に所得控除が受けられる
次に、受取時の所得控除ですが、これは受け取り方によって所得控除の方法が変わります。
退職所得として受け取った場合
まず、一時金として受け取った場合は、退職所得控除が適用されます。
退職所得額の計算式
(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額 ※1)× 1/2=退職所得の金額
退職所得控除は一定額が所得から控除されるため、受け取った一時金全体の課税額を抑えることが可能です。
なお、退職所得にはほかの所得とは分けて考える、分離課税が適用されます。
※1:退職所得控除の額
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数
(80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年) |
年金として受け取った場合
年金として受け取った場合は、公的年金等控除が適用されます。
年金所得額の計算式
収入金額-公的年金等控除額 ※2=年金所得の金額
年金所得が減額されることで、所得税と住民税の節税につながります。
また、所得が年金所得だけの場合、一定額まで住民税が非課税になる制度があります。
※2:公的年金控除の額
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下 | ||
年金を受け取る人の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
65歳未満 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額の合計額-60万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75-27万5,000円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85-68万5,000円 | |
770万円以上1000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95-145万5,000円 | |
1000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5,000円 | |
65歳以上 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額の合計額-110万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75-27万5,000円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85-68万5,000円 | |
770万円以上1000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95-145万5,000円 | |
1000万円以上 | 収入金額の合計額-195万5,000円 |
メリット③掛金が標準報酬月額に反映されない
選択制DCで掛金として支給された額は、社会保険料の算定基礎となる数値である「標準報酬月額」に反映されません。
標準報酬月額が高くなるほど社会保険料も高くなるため、反映されない分社会保険料が安くなる可能性があります。
社会保険料の額は、標準報酬月額表という、標準報酬月額をある程度の幅で等級分けした表を基に算出されます。
このとき、社会保険料が反映されない分、標準報酬月額が安くなったとしても、標準報酬月額表の等級が下がらなければ社会保険料の額には反映されません。
また、標準報酬月額の更新は、報酬額が著しく変わった場合を除いて、一般的に毎年9月の定時決定により更新されます。
そのため、社会保険料に反映されるには時間がかかる可能性があることを覚えておきましょう。
選択制確定拠出年金(選択制DC)のデメリット
選択制DCは自由度が高い制度ですが、それは同時に運用リスクを伴うデメリットとして働くこともあります。
デメリット①元本割れリスクがある
選択制DCが、自分で選んだ投資商品の運用により年金を用意する制度である以上、元本割れのリスクが常に伴います。
投資とは本来、リスクとリターンが表裏一体になった制度です。
比較的安全性の高い商品も用意されていますが、期待できるリターンが高いほどリスクも高まる傾向があることを覚えておきましょう。
デメリット②自分で運用計画を考える必要がある
選択制確定拠出年金は、制度自体の自由度が高い反面、自身で運用計画を立て、それを実行し続ける責任が求められます。
そのため、拠出を始める前に、自身のライフイベントやリスク許容度、資産形成の目標などに基づいて運用計画を立てる必要があります。
また、ライフステージの変化や市場の状況などに応じて、定期的に運用状況の見直しや商品の変更などが求められます。
1回買って終わりではなく、継続的にマネジメントすべきものであることを覚えておきましょう。
選択制確定拠出年金(選択制DC)の運用には投資の基礎知識が必要
選択制確定拠出年金は、自分自身のライフスタイルやリスク許容度に合わせて最適な年金制度を選ぶことができる、自由度が高い企業型確定拠出年金制度です。
その一方で、運用に関してはリスクを自己責任で管理する必要があり、運用計画の立案やリスク管理など、投資の基礎知識が求められる制度でもあります。
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執筆者:NISA・iDeCo相談センター編集部