iDeCoプラス(中小企業主掛金納付制度)とは、企業年金を実施していない中小企業を対象とした、従業員が加入しているiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金に、事業主が上乗せして掛金を拠出できる制度です。
2018年から始まった制度で、従業員の個人年金を企業が補助できることに加え、企業側にも税制面のメリットがあるとして、福利厚生と節税面の2方向から注目が集まっています。
この記事では、iDeCoプラスの制度概要やメリット・デメリットなどを解説します。
https://nisa-ideco-soudan.ashitaba-mirai.jp/2023/07/20/kaisetsu_hukuri/iDeCoプラスの制度概要
iDeCoプラスを一言で言うと、「従業員が加入しているiDeCoに事業主が追加の掛金を払う制度」のことを指します。
これは、iDeCoと別枠の制度ではなく、既存のiDeCoの枠を利用して、事業主が掛金を払い込む仕組みです。
実施対象は、従業員300人以下の企業年金(※)を実施していない事業主です。
事業主による掛金の拠出対象者は、iDeCoに加入しているすべての従業員のうち、事業主が掛金を拠出することに同意した従業員ですが、一定の職種または一定の勤続期間を拠出資格に加えることもできます。
また、制度における掛金額は、事業主の掛金と加入者(従業員)の掛金を合計して、月々5,000円以上2万3,000円以下で、1,000円単位で設定可能です。
この2万3,000円というのは、会社員が拠出できるiDeCoの掛金限度額と同じです。
事業主が追加で支払うからといって、掛金限度額が増加するわけではないので注意しましょう。
※:企業型確定拠出年金、確定給付企業年金及び厚生年金基金
なお、事業主がiDeCoプラスを始めるには、事業主と従業員で労使協議を行い、事業主の掛金拠出について労使合意を得てから、国民年金基金連合会に必要書類を届け出ます。
このとき、運営管理機関と個別に契約を結ぶ必要はなく、拠出額を変更するときにも労使合意が必要です。
iDeCoプラスのメリット
iDeCoプラスは、制度の仕組み上、従業員のメリットに目が行きがちですが、実は事業主にもメリットがあります。
従業員と事業主それぞれの代表的なメリットは以下のとおりです。
従業員にとってのメリット
- 事業主に掛金を拠出してもらえる
- 運用商品を自分で選べる
- 拠出金は所得に計上されない
事業主にとってのメリット
- 掛金の損金算入が可能
- 福利厚生の充実により人材確保につながる
従業員にとってのメリット
①事業主に掛金を拠出してもらえる
iDeCoプラスの最も大きなメリットが、事業主に掛金を拠出してもらえることです。
つまり、従業員は自分の負担を増やすことなく、老後への備えを手厚くできます。
iDeCoを始めていない方の中には、月々の掛金がネックになっている方も多く、iDeCoプラスを動機付けとして、iDeCoを始めるきっかけにしてはどうでしょうか。
②運用商品を自分で選べる
iDeCoプラスで企業が行うのは掛金の拠出だけで、その掛金でどの商品を購入するかは従業員側に任されています。
また、金融機関についても、iDeCoで自分が選んだ金融機関をそのまま選択できるため、老後資金の準備は自主性を持って進めたいという方におすすめです。
③拠出金は課税所得に計上されない
iDeCoプラスにおいて、事業主が従業員に支払った拠出金は課税所得に計上されません。
課税所得とは、給与やボーナスなどの受け取ったお金を合計した「収入」から、所得控除額を引いたあとの額であり、所得税や住民税を算出する基礎数値となる額です。
所得税や住民税は課税所得が多いほど高くなりますが、iDeCoプラスの掛金は課税所得に計上されないため、これらの税額に影響しません。
事業主にとってのメリット
①拠出金を損金に計上できる
iDeCoの掛金を加入者が所得控除に計上できるように、iDeCoプラスで事業主が拠出した掛金は全額を事業主の損金に計上できます。
ここで覚えておきたいのは、iDeCoプラスの掛金は、従業員の所得控除には計上できないことです。
iDeCoの掛金は従業員の所得控除、iDeCoプラスの掛金は事業主の損金と分けられています。
②福利厚生が充実するため、人材確保につながる
福利厚生を充実させ、他企業との差別化を実現するためにもiDeCoプラスは有効です。
福利厚生は従業員が企業を選ぶときに注目するポイントの1つであり、企業ごとに差が大きい分野です。
iDeCoプラスは従業員側のメリットが大きい制度であるため、福利厚生のPRポイントとしての活用もできるでしょう。
iDeCoプラスのデメリット
iDeCoプラスは従業員と企業の両方にメリットがある制度ですが、万能の制度というわけではありません。
例えば、以下のようなデメリットが存在します。
従業員にとってのデメリット
- 思うように資産が増えない恐れがある
- 60歳まで引き出せない
事業主にとってのデメリット
- 事業主の財政負担が大きくなる可能性がある
- 従業員間の不公平感につながる恐れがある
iDeCoプラスはiDeCo制度を基本としているため、従業員はiDeCoのデメリットを意識する必要があります。
また、iDeCoプラスは全社的に実施する前提であるため、事業主にはiDeCoプラスの導入によって組織に生じる影響の理解が求められます。
従業員にとってのデメリット
①思うように資産が増えない恐れがある
iDeCoは掛金を運用して増やす制度であり、必ずしも理想通りに資産が増えるわけではありません。
運用成績が悪ければ十分な退職金が確保できない恐れがありますし、元本割れリスクも伴います。
このリスクを減らすためには、投資や資産運用に関する正しい知識を身に着けることが大切です。
iDeCoを始める前に、投資にまつわるリスクや注意点、商品選びのポイントといった基礎知識を必ず学んでおきましょう。
②60歳まで引き出せない
iDeCoは複利効果や税制優遇制度といったメリットの多さから、投資制度としての強みが注目されがちですが、あくまで個人年金制度であり、資金を確実に用意するために途中で取り崩すことができなくなっています。
そのため、まとまったお金が必要になったときに困らないように、計画的な掛金設定が必要です。
ただ、「取り崩せない」という特徴は、資金を準備する力(強制力)が強いともいえます。長期的な拠出ができるか心配な方こそ、事業主に拠出してもらえるiDeCoプラスの活用がおすすめです。
事業主にとってのデメリット
①事業主の財政負担が大きくなる可能性がある
iDeCoプラス制度は、iDeCoに加入している従業員のうち、同意が得られた従業員に対して一律で実施するのが基本です。
そのため、対象となる従業員が多いと、事業主の負担が大きくなる恐れがあります。
また、iDeCoプラスの導入には、労働組合や従業員の同意が必要であるため、事業主が所定の手続きを行う必要があることも覚えておきましょう。
②従業員間の不公平感につながる恐れがある
iDeCoプラス制度の対象となるのは、あくまでiDeCoに加入している従業員のみです。
iDeCoに加入していない従業員にとっては関係のない制度なので、iDeCoに加入している従業員の「もらい得」に感じ、不公平感につながる恐れがあります。
不公平感を少なくするためには、事前の制度解説や投資・金融教育などが重要です。
そもそも、iDeCoを知らない従業員もいると思われますので、基本から分かりやすい解説を心がけ、すべての従業員に制度を利用する機会があることを理解してもらいましょう。
iDeCoプラスは企業の魅力向上にもつながる制度
iDeCoプラスは、従業員の掛金を事業主が拠出するという、従業員にとってメリットが大きい制度です。
事業主側も、掛金を損金に計上できるメリットがあり、福利厚生の充実により企業の魅力向上にも役立ちます。
老後の資金問題は年々声を増しており、それだけにiDeCo制度は注目度が高まっています。人材確保や定着率向上などを課題としている企業は、検討してみてはどうでしょうか。
なお、当センターではiDeCoプラスを含む確定拠出年金に関するご相談を随時お受けしています。
「なかなかiDeCoに関して相談できる先がない」と困っておられる方、ぜひ当センターまでご連絡ください。
執筆者:NISA・iDeCo相談センター編集部