職場のDC

企業型確定拠出年金(DC/401k)を分類すると?

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、厚生年金保険が適用されている事業所であれば、企業の規模を問わず導入できます。

「企業型確定拠出年金を導入している」といっても、実は企業ごとにどのタイプの企業型確定拠出年金を導入しているのかが異なります。

今回は企業型確定拠出年金をタイプ別に分類し、それぞれの活用方法の詳細をお伝えします。

企業型確定拠出年金は3つに分類できる

まず、企業型確定拠出年金は以下の3つに分類できます。

(もう少し細かく分類することもできますが、企業型確定拠出年金への理解を深めるため、ざっくりと3つに分類しています。)

  1. 給与上乗せ型・全員加入型
  2. 給与上乗せ型・選択制
  3. 給与原資型・選択制

「企業型確定拠出年金の種類なんて知らない」「勤務先からそんな説明を受けたことがない」という人も多いでしょう。

しかし、どのタイプに加入しているかによって活用方法が違ってきます。

それぞれのタイプの詳細をしっかりと確認しましょう。

企業型確定拠出年金のタイプ①給与上乗せ型・全員加入型

給与上乗せ型・全員加入型が最も一般的であり、大企業で導入されていることが多いタイプです。

このタイプは、

・毎月の給与に、企業(事業主)が一定の企業型確定拠出年金の掛金を拠出する(払う)

・原則として全ての従業員が加入する

この2点が特徴といえます。

なお、企業が一定の掛金を拠出するものの、勤続年数や等級によって金額は異なります。

さらに、マッチング拠出制度を導入していることもあるので、勤務先で確認すると良いでしょう。

マッチング拠出とは、企業が拠出した掛金と同額まで従業員も上乗せして積み立てられる制度をいいます。

全従業員が加入する場合は、ほぼ強制的に企業型確定拠出年金に加入することになるため、しっかりと活用したいものです。

企業型確定拠出年金のタイプ②給与上乗せ型・選択制

①給与上乗せ型・全員加入型と同様に、②給与上乗せ型・選択制も一般的な企業型確定拠出年金のタイプの1つであり、大企業で導入されることが多いです。

・毎月の給与に、企業(事業主)が一定の企業型確定拠出年金の掛金もしくは前払退職金を拠出する(払う)

・従業員は企業型確定拠出年金に加入するか、前払退職金として受け取るかを選ぶ

・中には「いくら企業型確定拠出年金にまわし、いくら前払退職金として受け取る」か、金額を指定できる企業もある

掛金を企業が拠出してくれる点は①給与上乗せ型・全員加入型と同じですが、そもそも企業型確定拠出年金に加入するかしないかを従業員が選べるという点が大きな特徴です。

このように説明すると、「企業型確定拠出年金に加入するケース」と「前払退職金として受け取るケース」がどう違うのか気になりますよね。

少し細かくなりますが、それぞれのパターンについてメリットとデメリットを以下で解説します。

①給与上乗せ型・全員加入型で企業型確定拠出年金に加入するメリットとデメリット

+掛金は給与(従業員の収入)と見なさないため、掛金部分の社会保険料・税金の負担が生じない

+引出しに際して年齢制限があるため、老後に必要な資金を確実に貯められる

-企業の規約通りの年齢でしか受け取ることができない(原則60歳)

②給与上乗せ型・選択制で企業型確定拠出年金に加入しないメリットとデメリット

※つまり前払退職金として受け取る場合を指します

+前払退職金として受け取るお金は給与と見なされ、収入にカウントされるため社会保険料・税金の負担が生じる

+月収が増える

-受け取った前払退職金を自分で運用・積み立てすることが必要で、資産管理が甘いと十分な老後資金が準備できないことも

上記からわかるように、一方のメリットはもう一方のデメリットです。

給与と見なされるかどうかで社会保険料・税金の負担に差が生じる点はしっかりと確認しておきましょう。

引出し制限をうまく活用しよう

先述の通り、企業型確定拠出年金は原則60歳まで引出しができず、「自由度が低い」「引き出せないなら、前払退職金として受け取ったほうがいいだろう」と考えるかもしれません。

しかし、この引出し制限をマイナスにとらえるのではなく、むしろプラスの効果があると考えてみませんか?

iDeCoの記事でも解説していますが、この引出し制限こそ、「老後資金を確実に準備するための強制力」ともいえます。

そのため、②給与上乗せ型・選択制タイプを導入している企業に勤務されている方は、できるだけ企業型確定拠出年金に加入し、引出し制限という強制力を活用しながら老後資金を準備することをおすすめします。

企業型確定拠出年金のタイプ③給与原資型・選択制

①と②に比べて、図解がずいぶん複雑になりました。

③給与原資型・選択制タイプは、最近徐々に導入が増えているタイプで、中小企業での採用が多いです。

③給与原資型・選択制タイプの特徴は以下の通りです。

・毎月の給与の範囲内で、企業型確定拠出年金の掛金選択枠(ライフプラン給)が設定される

・従業員は、企業型確定拠出年金の掛金選択枠の中で、企業型確定拠出年金に加入するか加入せず給与として受け取るかを選ぶ

※選択枠は、法令上55,000円です。

・加入する/しないを決められるだけでなく、掛金も従業員である程度自由に設定できる

③給与原資型・選択制タイプを理解する上で注目したいのが、「掛金がどこから支払われているか」という点です。

先述の①②タイプの場合、掛金は企業が拠出します(掛金が点線を超えている=従業員の基本給が原資ではない)

しかし、③は従業員の給与を原資とし、給与の範囲内で企業型確定拠出年金への加入を検討します。

まさに「給与原資型」という名前の通り、給与が原資になっているということです。

③給与原資型・選択制で企業型確定拠出年金に加入するメリットとデメリット

+引出しに際して年齢制限があるため、老後に必要な資金を確実に貯められる

+掛金は給与(従業員の収入)と見なさないため、掛金部分の社会保険料・税金の負担が生じない

-企業の規約通りの年齢でしか受け取ることができない(原則60歳)

-掛金を払えば払うほど手取りが減る

③給与原資型・選択制で企業型確定拠出年金に加入しないメリットとデメリット

+手取りの金額はこれまでと変わらない

-自分で別途運用・積み立てすることが必要で、十分な老後資金が準備できないことも

ただし、以下のケースでは、むしろ企業型確定拠出年金に加入しないほうが良い場合があります。

加入する場合・加入しない場合のメリット/デメリットを確認すると、やはり繰り返しになりますが掛金が収入と見なされないという点は大きなポイントです。

給与原資型・選択制の注意点

給与から掛金を拠出するタイプの注意点は以下の2点です

手取り額の減少

拠出による手取り額の減少は注意したい点です。

あまりにも多額のお金を企業型確定拠出年金に回すと、毎月の収支が悪化してしまうかもしれません。

老後資金の準備に傾倒するあまり、目先の収支がマイナスになるのは本末転倒です。

くれぐれも気を付けましょう。

加入しないほうが良いことも

繰り返しになりますが、給与原資型は給与から拠出するタイプです。

国の制度の中には、手当金・給付金の算出時に毎月の給与を基にしているものもあり、状況次第では企業型確定拠出年金に加入しないほうがいいこともあります。

以下のケースに該当する場合は要注意です。

退職間近な人

失業手当は退職前6か月の給与を元に算出されますので、企業型確定拠出年金に加入して給与が減少すると、失業手当の受給額が減る要因です。

休職を考えている人

病気などを理由に休職を検討している人も、安易に企業型確定拠出年金に加入することは控えましょう。

失業手当と同様、傷病手当金も給与(標準報酬月額)を基準に算出されるため、掛金を拠出することにより給与が圧縮されると傷病手当金の金額が下がります。

出産を控えている人

傷病手当金のケースと同様に、出産手当金が下がることなるため出産を控えている人の加入も要注意です。

まとめ

企業型確定拠出年金(DC)という言葉すら、あまり深く理解していない方もたくさんいらっしゃいます。

「そんな年金に加入していたっけ?」

「入社時に説明があったけど全く覚えていない」

相談時にこうおっしゃるお客様も多く、やはり企業型確定拠出年金の概要がまだまだ広く認知されていないのが実情です。

そんな状況ですから、企業型確定拠出年金は3つに分類されると言われてもよくわかりませんよね。

今回は、企業型確定拠出年金を(ざっくりと)3つに分類して、タイプごとの大まかな特徴をつかんで頂きたいと思い、記事を書きました。

ご自身の勤務先のタイプは、どれに該当するでしょうか?

ぜひ一度この機会に確認し、必要に応じて当センターへの相談もご検討ください。

 

筆者:ファイナンシャルプランナー 舘野聡子